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第212話 安倍晴子の秘密①

Author: 霞花怜
last update Last Updated: 2025-11-03 19:00:37

 呆然とする理玖と晴翔をローラが不思議そうに眺める。

 理玖は額に人差し指をあてて、思考を整理した。

「え……っと。ママン、時系列で。日本に来た時のことから、なるべく詳細に話してくれない?」

 理玖に促されて、ローラが考える顔をした。

「そうねぇ。ママンは十五歳の時、レイノルドグランパと日本に来たの。ドイツでしてた実験を続けられる場所が日本にあるからって、ママンのママンの代わりにね。秩父の施設に招いてくれたのが晴子だった。両親が持っている施設の中に実験室に出来そうな場所があるからって言ってね」

 それが今のRoseHouseの前身となった施設なんだろう。

 あの場所は児童養護施設になる前は理研の空き施設だったようだ。

「安倍晴子とは、どこで知り合ったの?」

「ドイツのグランパのexperiment roomよ。ママンはよく遊びに行っていて、助手をしていた晴子に遊んでもらっていたの。女の人、あの当時は少なかったからね」

 三十年前の医学界は男性優位な社会だったろう。

 海外の研究室に就職できたこと自体、幸運だ。

「晴子は当時二十四歳で、日本の大学から飛び級してドイツのカレッジに入って、やっぱり飛び級で卒業した頭の良い子でね。グランパの実験室で働いていたのは、一年くらいだったかな」

 大学を飛び級して地元の実験室に就職できるのだから優秀だったのだろう。

(晴子は十八歳の時に前夫の子である千晴を産んでいるはずだ。日本に置いてきたのかな。その辺りの事情は分からないけど。大学に入学してすぐに妊娠出産してドイツへ……、って考えるのが妥当か)

「グランパが日本に行く半年くらい前に晴子は日本に帰ったんだけどね。突然、連絡が来たんだって。実験の続きを

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     理玖と晴翔の肩をローラが包み込んだ。「本当に良かったわぁ、理玖。こんなに素敵な王子様に愛してもらえるなんて。さすが、理一郎と私の子ね」 ローラがゆっくりと理玖と晴翔の頭を撫でる。「晴翔は理玖がクローンでも、理玖を愛してくれたのね」「俺にとっては目の前の理玖さんが総てです。俺が知ってる理玖さんを好きになったんだから」 晴翔の言葉にローラが目を潤ませた。  自分の額を晴翔に押し当てた。「理玖にとって人生最大の幸運は、晴翔に出会えた奇跡ね」「それは、俺こそ……」 晴翔がいつになく照れた顔で言葉を詰まらせた。「なんだか、照れますね。俺は父親しかいないから、母親って、こういう感じなんだなって」「Oh……晴翔、貴方……」 ローラが気の毒そうな目を晴翔に向ける。「晴翔君は父親が二人いるんだよ。onlyのお父さんとotherの親父さん」「Oh! Amazing! 晴翔と理玖の子が出来たら、onlyのパパンに色々教えてもらえるわね」 ローラが嬉しそうに笑った。「じゃぁ、全部話しても良さそうだな。約三十年前の秘密。理玖にも話してないコト、たくさんあるぞ!」 理一郎が隣の部屋から、山のような資料を出してきた。「三十年前の秘密……。臥龍岡先生が俺に話していたことは、全部嘘……。って訳じゃ、ないんですか?」 資料を眺めて、晴翔が問う。

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